本書は「学生のための35のソルフェージュ」につづくピアノ伴奏つき視唱テキストです。メロディーを「歌う」ということは，単に「音高と時間の関係」を正確に再現することだけではなく，そのメロディーに付随するハーモニーを充分に感じながら表現することではないでしょうか。そのためには，メロディーからハーモニーをイメージする能力，つまり理論的知識はもちろんのこと，多くの体験から得られた感覚（音楽的感覚）が要求されます。多くのソルフェージュ教材では，「無伴奏の単旋律」で歌うことを求めてます。学習初期の段階で和声的手がかりを伴わない課題を用いることは，和声感覚の乏しく経験の浅い学習者に対して音楽的な感動を与えられるでしょうか。伴奏を聴きながら歌うことは，和声的感覚の体得につながり，そのことが表現への理解を深めることへの近道だと考えます。
また，このことは音楽的感性豊かな人間形成にもつながると信じています。このテキストでは，そういう信念のもと，メロディーと一体化する「魅力的な和声づけ」が施され，多くの響きを体得できるよう機能和声を逸脱した響きも使用し，単に課題としてだけではなく，音楽作品としても完成度の高いものを心掛けました。